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「すまんでしたな、長話をして」
「あれらしいのよ」
「さうです。――どうかなさつたかね」
と、小谷は人差指と中指を二本突き出して見せて、
「畜生、おぼえていろ。」
これはちっとも可笑おかしくない!彼ら二人は実にいい夫婦なのである。
「ですが、何とも手のつけやうがない」
房一は持前の人慣れた愛想のいゝ微笑をうかべていた。それは水面にできた波紋がゆるく輪をひろげるやうに、彼の厚い醜い唇からはじまつてしだいに、顔全体をつゝみ、つひに容貌の醜さを消してしまふものであつた。
房一には連れが二人あつた。
「さうですか」
「さうだ、鍵屋の法事へ行くんでね。さつきは、君にさう云ふのを忘れていたが――まあ、上りたまへ」
「何だらう?」
柳里恭りゅうりきょうの『雲萍雑志うんぴょうざっし』のうちに、こんな話がある。