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いきなり忙せはしなく立上ると庫裡へ走つて行つて、間も無く茶器を揃へた盆を自分で持ち運んで来た。長い胴を折り曲げるやうな危つかしい調子で房一の前に置くと、
肉が部厚に盛り上つているために自然と深くできた額の横皺、稍やゝ動物的な感じのする大きな眼玉、近頃その上に髭を蓄へはじめた厚いふくらんだやうな唇、それらのあまり美しいとは云へない部分々々を一つの形にまとめるやうに顔の下半から張り出している円い確しつかりとした案外柔味のある顎――盛子が結婚後最初に覚えたのはこの円い顎だつた。それは房一の顔に調和と落ちつきを与へていたばかりでなく、盛子の胸に何かしら安心と親しみ易さを感じさせた。
「やあ、おいでなさい。わたし、相沢です」
徳次は人の好い、いかにもさう信じこんだやうな眼で二人を眺めた。
徳次は気が抜けたやうに、口のあたりをもごもごさせるきりだつた。
彼女はその表情を少しもくづさずにすつと引き下つたが、間もなく帰ると、
徳次は水際につないである船の所に行き着く前にもう褌ふんどしとシャツ一枚の半裸体になつていた。衣類をくるくると円めて、帯でひつ括くゝるなり、ぽんと手前にはふり出して、いきなりざぶざぶと河の中に入つて行つた。船体を蔽つてあつた帆布をめくりとる、敷板を上げる、ロープを片づける、その後は船体の水洗ひだ。
富田は房一に声をかけて彼のために席を明けながら、つづけて
かういふことになると、彼の話振りには一種の無邪気さが現れて釆る。
「ふむ、さうすると――」
と、練吉は急いで云つた。
――房一がさういふことを耳にしたのはごく最近である。しかし、いづれにしても房一には直接関係のないことだつた。